2025.05.23
2025年4月30日〜5月2日、死刑制度問題班として東京へ現地学習に赴きました。
今期は主に「被害者遺族の声を聞く」ということに重点を置きながら活動している中で、この度の現地学習では、殺人事件被害者遺族の会「宙の会(そらのかい)」のお話を伺うことを中心に日程が組まれました。
初日はまず赤坂の「港合同法律事務所」へ赴き、昨年もお世話になった石塚 伸一弁護士と、長年、当班と深く関わりを持たせていただいている「死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90(以下、フォーラム90)」所属の鏡 豊氏のお話を聞かせていただきました。鏡氏は、これまで内閣府(法務省)が行なってきた「基本的法制度に関する世論調査」(死刑制度に関する世論調査)のデータの変遷について研究しておられ、いまだに国民の約8割が支持するとされる「死刑制度やむなし(存置)」ということのデータ的根拠や、調査方法・設問に関する問題点についてお話しいただきました。石塚弁護士からは、「袴田事件」冤罪確定後の調査にもかかわらず、2024年の調査結果が依然として「死刑存置」に対する民意が高いことに落胆や懸念を示されつつも、刑罰と宗教との関わりの重要性について、ご自身の研究課題をもとに海外や国内の刑務所での教誨の実態等について丁寧にお話しくださいました。
その夜は、同法律事務所において開催されたフォーラム90の定例会議に出席し、メンバーの皆さんと意見交換をさせていただきました。
2日目は午前中、東京拘置所へ赴きました。昨年、面会させていただいた未決死刑囚A氏に今年もお会いできるかと思っていたのですが、この一年の間に最高裁での死刑が確定してしまった為、今年は面会することが叶わず、代わりに差し入れをしてきました。建物の外から、元気で過ごされることを願うばかりでした。
そして午後に、宙の会の特別参与でおられる土田 猛氏にお会いし、お話を聞かせていただきました。まずはご自身の警察官としてのキャリアの中で、「世田谷一家四人殺人事件」の捜査に関わりながらもその最中に退官(定年)となり、数年後にはその事件が時効になってしまうことについて後悔の念を抱かれ、「民間人として何か被害者に寄り添うことが出来ないだろうか」という正義感の中で宙の会を立ち上げられたという経緯をお話しいただきました。そして、様々な事件の被害者遺族と関わられる中で、不条理な形でお身内を亡くされた遺族の感情に触れ、「かけがえのない命を奪われたら、何をもって返すことができるのか」「命をもって返すこと以外に理念はあるのだろうか」というご自身の心のうちに湧き上がってくる思いと、国民の約8割が支持するとされる「死刑制度やむなし」という民意を尊重すべきであるという考え方から、死刑を存置することで多様化する犯罪社会の中で秩序が維持され、文化が育まれるのだという思いを語られていました。
最終日には、東京高等裁判所にて裁判を傍聴してそれぞれ帰路についたことでありますが、今回の現地学習を通して考えさせられたことは、「制度と感情を同じまな板の上に乗せても、決して交わることはない」ということであります。これは、この度帯同してくださった宮本 尊文氏(第4組顕浄寺住職・第9期教化本部総務)が土田氏との質疑応答の時間にお話しくださったことでありますが、私たちはどこまでも「人間の眼」でしか物を見たり判断したりすることしか出来ないのだなと。如来の説かれる人間の道理、そのことに背きながら、自分の感情であぁでもないこうでもないという議論に終始する私たちの在り方こそが如来の救いの目当てであり、それぞれの立場を超えて、如来が何を願われているのかを本願に聞き続けなければならないのだということを感じました。
残りの任期もあと一年となりましたが、これまでの出遇いのなかで教えられたことを大切にしながら、死刑制度という問題と向き合って参りたいと存じます。
(報告者:小川 大授)